カタログ
「なんや、コレ」
 
「あぁ、通販カタログや。こっちはもっぱら服がメインで、こっちのは下着が主や。ひより見るなら貸すで?」
 
 万年ジャージで快適生活だが、表紙に“小さいさんでも大丈夫!着こなしコーディネート”なんて書いてあるから、ちょっと気になってしまう。それでもやっぱり照れくさくて、断ろうと口を開くのも待たずにリサはカタログを押し付けてきた。
「ついでに買うもんあったら一緒に頼んだるから、メモしといて。うち、今日の晩御飯当番やから、これから買出しに行ってくるから」
 言うだけ言うと、さっさと買い物に出かけて行った。
 
 カタログとにらめっこして、辺りをきょろきょろ見回し、誰もいないことを確認する。ソファに座って早速気になる特集ページをめくる。
 
(これは着て歩くんは無理やな・・・うちのキャラやない。あ、でもこっちのはええかも・・・)
 黒のショートパンツと、胸にコサージュっぽいあしらいのある可愛いグレイのパーカ。中のシャツは今持ってるTシャツでもいけるし。
 値段も手ごろだし、買おうかな。
 
「や、オレはこっちのがええと思う」
 頭の上から声がした。見上げてみると、長身を生かしてひよりの頭の上からカタログを覗き込む仲間の顔。
「シンジ!いつからおったん!」
 
「あー、今や今。おまえ何も気付かんと夢中になっとるから、なんやろ思うてなー。それよか、オレこっちのが好みやから、こっちにしい。おまえでも似合うで」
 シンジが指さしているのは、黒のミニスカートに白のパフスリーブのブラウスがなんとも女の子らしい服で、先ほどひよりが却下したものだった。
 
「なんなら、買うたるで?」
「いらん!」
 カタログをばたんと閉じて、そのままシンジの顔にぶち当てると、ずかずかとその場を去っていった。
 
「なんやねん!アドバイスしたっただけやろ!ほんっま、痛いわー!」
 ふと残されたカタログを見て、シンジはにやりと笑った。
 
 後日。
 結局ひよりは何も頼まなかった。リサと白は届いた服を頼んだ人宛に分けていた。
 
「はい、これひよりの分。ひよりがこんなん頼むの意外やったけど、なかなかいいと思うで」
「え?うち頼んどらへんよ?」
「だって、これひよりのメモやろ?」
 
 見せられた紙には、商品番号と“頼んどいて。ひより”と書かれていた。
 もしやと思い、受け取った服を見ると、黒のミニスカートに白のパフスリーブ。ついでに中に着るキャミソールまである。
「おお、届いたんか。早速着てみい」
勝手に頼んだ張本人が来た。シンジだ。
 
「あのなぁ、うち、いらん言うたろ!何勝手に頼んでんねん!」
「だから、オレが払ってやるから、四の五言わんと着てみぃ!」
「だから何でうちが、おまえに指図されなあかんねん!腹立つわー」
 
「えー?でも可愛いじゃん。ひよりん着ないなら白にちょーだい」
「着てみるだけ着てみたらええやん。うちもいいと思うけど。ほら着せたるからこっち来ぃ」
 ジャージの襟首をがっしり捕まれ、リサに連行されたひよりは、小猿のように喚きながら着替えさせられた。
 二つに結んでる髪の毛も下ろされて、自分でも意外に悪くないと思ってしまった。悔しいから言わないけど。
「ほら、似合うやん」
「うんうん、いいじゃん。ひよりん可愛いよ」
 
 照れた顔を見られたくなくて、うつむいていたが、ついちらりとシンジの方を伺ってしまった。
 いつものように大きな口でにやにやしていた。
 
「よし、じゃあ今からオレの服買いに行くから、おまえ付いて来い」
「な、なんでうちが行かなあかんの?うち行かんで。行かん言うてるやろ!はーなーせー!!」
 今度はシンジに連行されていくひよりを、リサと白が見送った。
 
 裏話
「ひより可愛かったなぁ。こっそり見に行った時、手なんて繋いでるから結構楽しかったんやろ?でな、ちゃんとデートのセッティングしてやったんやから、うちの服の代金も頼むで」
「しゃーないなー、あいつとデートするんも高う付くな」
「自分で誘っても全滅やから、親切でセッティングしてやってるんやないの」
「・・・すんません。またお願いします」
 
                                        おわり