・夜の帳・

もうめちゃくちゃだ。

体が疼いて仕方ない。
初夏の夜風の中、上がる息を抑えられない。
 
上弦の月光の中、色素の薄い男の瞳はじっとこちらを見ている。その瞳はとろりと蕩けてうっとりとしていながら、獣のように鋭かった。
蒼い光が白い肌を更に透かす。
それに引き換え、自分の肌は今にも闇に溶けてしまいそうだ。闇に逃げ込むことを許さないように体をしっかり抱きこまれ、近付く唇に吐息を奪われる。
 
「綺麗っス・・・、夜一サン・・・」
ささやかな賛辞に唇の端を上げて応じる。そんな賛辞より、欲しい物は決まっている。
ありったけの甘い声音で男の名を呼んでやると、同じく口の端を上げて“わかってますよ”と囁いた。
 
互いの指先が熱を持ったまましっかり繋がると、体の皮膚が熱くて焦げてしまいような感覚が襲う。
 
喜助の体温は熱過ぎる・・・。そんな文句を言おうとしても、その熱を愛していた。その熱で焼かれることを望んでいた。
氷のような容貌の男の熱い皮膚は、そのギャップだけで自分をその気にさせる。その指先が自分の肌の上をなぞれば、奥深くに眠る女を呼び覚ます。
 
その指と瞳はいわば鍵だ。
繋がることがこんなに気持ちいいものだと、触れ合う体温が心地いいものだといい事を教わった。
扉を開けば、もう止まらない。
瞳を閉じて更に感覚が研ぎ澄ます。
 
その大きな背中に手を這わせ、引き締まった臀部まで上下に撫でる。何度も。
その金の髪に手を差し入れて、指の腹で湿った頭皮を優しく撫で梳くと、くすぐったそうに喉を揺らして響く低い声に、こちらが煽られる。
 
「・・・そんなに誘惑して、一体アタシをどうしたいんですか?」
「さぁ、どうしようかの・・・」
蕩けそうな顔のままねだって、そのまま舌先で彼の下唇をなぞった。喜助は氷の瞳を月のように弧を描いて、唇を絡めてきた。
「アナタが望むままに・・・」
夜は、これから。
 
 END