郷愁

過去編喜夜のリクで、SS作ってみました。やや長いです。それに、喜助が意思の疎通なく致しちゃってますので、それ系の話が苦手な方は今すぐブラウザー バック!!OK、どんとこーいな方はレッツ スクロール!

 

 

 

 

 

<郷愁>

空が高くなって、風が冷えて、はるかな頭上を飛ぶ雲が、夏が去った事を知らせた。
山々の緑が黄色や赤へ色を変えて、早まる夕暮れに一抹の寂しさを感じる。
今日も地獄蝶が、ひらりひらりと伝令を伝えては、するりとまた去っていく。
 
指令で、虚を討伐した帰り。隊長としての任は果たして無事帰還する。
今回は二番隊としての仕事で、隠密機動・刑軍としての暗躍は必要無かったから、夜一は随分気が楽だった。
隊舎に戻ると、目をかけている部下が一目散に迎えてくれて、あれやこれやと世話を焼いてくれる。
「夜一様、お疲れ様です。どこもお怪我はありませんか?」
「うむ。儂の留守中大事無かったか、砕蜂」
「は、何事もございませんでした!」
礼をとって、歩みを進める夜一の後ろに控える。しかし、突然ピタリと夜一が立ち止まった。
「そうじゃ・・・、砕蜂。喜助は戻っておるか?」
夜一からその名が出ると、砕蜂は苦く顔をしかめる。この少女はかの男がとても苦手だった。正確に言うと、嫌いだった。
喜助は敬愛する夜一の幼馴染で、この二人は互いに最も信頼を置く間柄だ。
が、どうにも胡散臭い。それに、彼が夜一を見る目が気に食わなかった。
「私は、三席がお戻りかは存じません」
「そうか」
彼女はそれだけしか答えなかった。その表情は見えなかったが、その声音はどこか安堵しているかのように聞こえた。
 
 
湯浴みでしっかりと体を温めたはずなのに、この時期の風は容易に熱を奪って行く。
闇夜色の短い髪を風に遊ばせながら、自室の窓辺から上弦の月を見上げる。
喜助は別の指令に出ている。まだ帰ってきていない。
砕蜂の思ったとおり、実際夜一は安堵していた。
(今、喜助にどんな顔をして会えばよいのじゃ・・・)
夜一は人知れず溜息をついた。
「そんな溜息ついて、一体誰を想っているんスか?」
気配を消すなど、悪趣味めと思いながら、いつの間にか襖の向こうから様子を伺っていた喜助へ頭を回らす。
「無事か?」
「ええ。アナタは?・・・なんて愚問っスね」
「当然じゃ」
ゆっくりと近付いてくる歩みを制止もせず、短い言葉を交わす。
それでも、夜一の肌がピリリとざわつく。それを見透かしたように微笑む。
「・・・やだなぁ、ここじゃ何もしませんよ。そんな警戒しないで下さい」
「生憎、おぬしの言葉全てを鵜呑みにすると危険だと知ったのでな。よいか、もしここで蛮行を起こそうものなら、全力を持って返り討ちにするからの」
「おお、怖い怖い」
おどけてみせる喜助はいつもの彼のように見えた。けれど目の奥が焔を灯していた。
 
 
あれは一週間前、通常業務が終わった後のことだった。
双極の丘の地下にある秘密基地。二人で作った東屋。ろうそくがちらちらと灯りを灯していた。
いつものように、二人で互いの力の利点・弱点を分析しあっていた。
「夜一サンの動きには誰もついていけないけど、力は僕の方が強いっスからね・・・」
十分に知っているはずの力の差。常々それを悔しく思っていた。
成長するにつれて、顕著に開いた男女の差。
手足の長さや、肩幅、筋肉の付き方、腰の位置・・・。数えればきりがない。
 
喜助は鍛錬の後だったので、死覇装の袷を開いて熱気を逃がしていた。視界に入るのは適度な筋肉に覆われた胸板で、自分のように丸い双球はない。
「おぬしは良いのぅ・・・。儂はこんなもの要らん・・・」
夜一は豊かに育ってしまった自分の胸に手を当てた。
「・・・ボクは夜一サンの胸、大好きっスよ。柔らかくて、あったかくて」
「でも、戦闘には邪魔じゃ。欲しいなら、おぬしにくれてやるのに」
夜一は溜息をついて俯いたから、喜助の双眸に影が走ったのを見逃した。
「・・・夜一サン、男の体も結構面倒くさいンですよ・・・」
「そうかのう?」
「少しだけ、見てみる?」
幼い頃の喜助の裸はよく知っていたが、成人した彼の姿は知らない。このときはただの興味本位で頷いた。
 
死覇装の袖を抜いて、細身ながら意外としっかりした筋肉がのった上半身が晒される。
男のくせに肌も白くて、肌理細やかで、綺麗だと思ってしまう。
「触ってもいいっスよ」
ほら、と腕を差し出された。警戒心など全く無かった夜一は、嬉々として喜助に近付いた。
そしてペタペタと腕や胸を触っていく。存外心地よいその肌は、とても熱かった。
「ねぇ、ボクも夜一サンの裸見たいな・・・。あっ、ヤラシイ意味じゃないっスよ!後ろ向きでいいっスから!」
「・・・儂の死覇装、背中の布が無いような物じゃろ。それじゃ駄目か?」
「駄目っス!後ろ向きでも何でも良いから、裸になって下さいよ。ボクだって見せたんだから!」
子供のようにムキになる喜助が可笑しくて、カラカラ笑うと、喜助に背を向けて死覇装を脱いだ。
「背中、触っていいっスか?」
「うむ、良いぞ」
喜助の指がそっと背中の真ん中に触れた。つつ、と指が降りて行く動きにくすぐったさを覚える。何度もその動きが繰り返される。
「・・・綺麗・・・」
「そうかの?おぬしの肌もなかなか心地良かったぞ」
背中から、首筋に移った掌がやけに熱く感じる。撫で降りる感触に足元がゾクゾクする。
 
笑っていた夜一の口元が引きつり始める。なぜか急に居心地が悪くなってきた。
「き、喜助、もうよかろ?」
「・・・」
喜助は何も答えなかった。逆に、片手では足りないとばかりにもう片方の掌が二の腕を撫で始めた。
心臓が早鐘を打ち始める。
「喜助、もうよかろ?」
先ほどよりもっとはっきりと尋ねた。返ってきた答えは突然の強い抱擁だった。
「!!」
夜一の背中は喜助にすっかり包まれて、腕の中に囲われる。耳元に当たる吐息は湿っぽくて、荒い。
夜一は急速に余裕を無くした。喜助の熱が尋常じゃない。この男に限って、まさか、と思う。
二人の間に色恋が垣間見えたことなど無かったからこそ、喜助の行動が信じきれない。
「喜助、ふざけるのはもう終いじゃ!腕を離せ」
「・・・イヤ・・・」
低く囁いた拒否すら、耳をくすぐって、思考を乱す。視野がどんどん狭くなる。
動悸で、息が上がる。言葉が喉から出ない・・・。ろうそくの火がチラチラ燃える。
褐色の体を拘束している腕の代わりに、その唇が艶かしい首筋を舐め上げた。
動き出したなら、もう流れは止められない。覆いかぶさるように押し倒されて、首筋に吸い付く。
ぬるっとした舌の感触を感じる度に、夜一は体を跳ねさせた。
「や、・・・ア、」
戸惑う気持ちと迷走する思考で、満足な言葉すら浮かばない。
喜助は夜一の髪の感触を頬で感じながら、息を吸うたび直接脳に運ばれるほんのり甘い匂いに理性を無くしていく。貪欲に奪い取るかのように、唇を這わせる。
背中に喜助の重みを感じながら、それでも夜一は逃げ出そうともがいたが、それを許してもらえなかった。喜助は片手で夜一の体を拘束したまま、自由になった腕で、器用に夜一の袴をずらした。
性急な動きとヒンヤリとした空気を臀部に感じて、いよいよ夜一の焦りはピークに達した。
一段と激しくもがきだした夜一を力で押さえ込み、急いで自分の袴を寛げると、そのまま強引に足を開かせ、腰を重ねた。
「!!」
宛がわれたものを認識する前に、沈み込んできたそれは、夜一を無理矢理開いていくから、血が流れる。
裂ける痛みと穿たれる強い違和感に、唇をかみ締め、ぐっと耐える。口の中でも血の味がする。
それとは逆に、喜助はうっとりと恍惚としたまま、上下に体を揺すった。
ゆっくり揺れる体が、徐々に速度を増し、それと併せて喜助から低い呻き声が漏れ出した。
夜一は彼の獣のようなその声を、ぼんやりと、遠い目のまま聞いていた。
溢れる涙の理由がわからない。悲しい、悔しいではない。かといって嬉しいものではなかった。
でも、これが自然の形なのか、と妙に納得している自分が不思議でたまらなかった。
 
あの晩の蛮行以降、夜一は喜助と二人きりになろうとしなかった。
それ以前も以降も、愛の囁きなどない。言葉は嘘をつくから最初から信じていない。
喜助の目はいつでも熱をもって夜一を見ていた。それが本心なのだろう。
それが単なる欲情であっても、純粋な想いでも、その強い瞳はいつでも夜一を射抜いた。
彼女が気付かないだけで、もうずっと前から喜助は見つめていた。
 
「ねぇ夜一サン、秘密基地に行きましょうよ。二人っきりで良いコトしましょ?」
「儂はこれでも怒っているのじゃがな。鉄拳食らわねば分からぬか?」
「でもアナタはこの先、ずっとボクに抱かれるよ。アナタを抱いた時、言いえない懐かしさを感じた。理由は分からないっスけど、昔からずっと一つだった気がした」
それは夜一も心のどこかで感じていた。
月明かりを映した喜助の瞳に誘われるがままに、部屋を後にした。
 
<終>

大丈夫ですかね?具合悪くなってない?私は朝メシ前で、どんとこーいなんだけど、臆病だから反応が気になります。

スキとか愛してるって言わず、思いを伝えさせてみようと思って玉砕しました。