視線

 

喜助と体を交わすようになって、しばらくが過ぎた。
今は、相手の視線だけで意図を汲み取れる。
隊主会の最中、一瞬の視線の交差。誰にも気付かれないように。でも確かに伝わる欲求。
場所は決まって、双極の下の秘密基地。
誰も知らない。誰にも教えない。
姿を見せた途端、言葉も無く抱きすくめて、布団の中へ押し込められる。
唇を重ねて、そう、角度を変えて。喜助は口接けたまま軽く上唇を噛むと、少し開いた口からするりと舌を忍び込ませる。
「ん・・・あぁ・・・」
口の中一杯に舌が入り込む。これは催促なのだ、儂も舌を絡ませろ、と。喜助は口接けがどんどん上手くなって、それだけで儂を酔わせる。けれど、儂は上手く出来ない。
「夜一サン、舌絡ませてきてよ。淑女ぶってもボクもう知ってるンすよ、アナタがどんなに濡れやすいか。・・・・・・ホラ・・・」
死覇装の上から長い指先でそっと陰唇を撫でられて、嫌でも知らされる。
自分の体は何も知らなかった時には戻れないほど、喜助との営みを喜んでいる。
言葉は要らない。深い吐息と流し目で見上げれば、彼の口元はほら、欲望に歪む。
 
互いの着物を毟り取るように脱がし合って、裸の皮膚に手を沿わせる。
熱い体温。胸元から腹部。儂の好みはこの腰。そこから臀部に下って、また大きな背中に撫で上がる。
その間、視線を絡ませたままで、口を付くのは吐息だけ。重く湿った吐息は耳を掠め、首筋に降りる。
抱き締められたら、それが合図。
くすんだ金色の髪が頬をくすぐっていく。あぁ、耳の下から首筋はとても弱いのだ。それを知っているから、何度も唇で愛撫していく。ゾクゾクと背筋が震える。
「あぁ・・・、ん・・・はぁ・・・」
ちゅ、ちゅっと音を立てて皮膚を啄ばむ。喜助の頬に手を添えて、引き寄せると再び唇を重ねる。
腕をその首に絡めて、体ごと隙間が出来ないようにくっつけて。あぁ、熱い焔に焼かれる。
足が絡んで、内腿で彼の大腿を撫でていく。
大きなその手は、ゆっくりと円を描くように乳房を撫でる。もう片方は臀部やら背中やら忙しない。その手がなぞっていった皮膚が、もっと触れて、とねだる。
息を吸うだけの隙間。汗が二人の体を濡らしていく。
 
喜助の広い肩や二の腕を撫でながら、髪を梳く。さっきまで唇を支配していたそれは、敏感になった乳頭を咥えて弄んでいる。
それに甘く感じてしまう儂は、もうどこか壊れたのだろう。
「あ・・・っあぁ、ん・・・っ喜助・・・!」
髪に指を差し入れながら、撫でるように掻き乱す。喜助の指も下でそれを真似る。
ああ、嫌・・・駄目・・・。そんな浅くじゃイヤ。
足を喜助の体幹に擦って、欲求を訴える。
「・・・こんなに濡れて、はしたないっスね・・・。一体どうして欲しいんスか?」
ニヤニヤ笑って、あれを模して指を動かす。
はっ、と息を呑む。でも、欲しいのはこれじゃない。欲しいのはもっと太くて大きいモノ。
「喜助・・・、欲しい・・・。早く・・・!」
「・・・本ト、可愛い・・・」
引き抜かれた指はびっしょり濡れて、眼前に晒された。
彼を待ち焦がれて、体が焼けそう。それなのに、喜助はしてくれない。
うっすら開けた目で彼を見ると、見せ付けるようにその指に滴る蜜を舐めた。
その情景に耐え切れずきつく瞳を閉じると、ぐっと喜助が入ってきた。
先ほどとは違う質量に、鼻が鳴る。
全て収めようと腰を触れ合わせたままで、ゆるく妖しく動き出す。
様子を伺うように軽く腰を揺すられた。ついに楔は体内で子宮への扉を叩いた。
リズミカルに、速度を上げていく動きに、口は意味を成さない言葉を吐いていく。
何度も喜助を呼び、腰を揺らし、獣のように唇を噛み合った。
 
命を懸けて指令をこなし、彼とすれ違う渡り廊下。
すれ違いざまに触れた指先。ちらりと交わした瞳で、今夜も火が灯る。
 
<終>