「おや、夜一サン。何見てるンですか?」
「んー・・・、現世の結婚情報誌とやらじゃ」
「は?結婚情報誌?」
寝転がってページをめくる指。その上から覗き込むと、白いドレスを着たモデルの写真がページ狭しと並んでいた。
「これどーしたんですか?まさか買ってきたんですか?」
「道端で配っておった。“ご結婚のご予定はございますか?”とか聞かれたがの」
きっと、そんな予定もないくせにテキトーに答えたんだろうな・・・。
「・・・で、それ見て暇潰してるわけですか」
「暇つぶしのために見ているのではないぞ。参考にしておるのじゃ」
今度こそ喜助は吃驚した。これでは結婚すると言っているようなものだ。
「夜一サンは、誰と結婚するつもりなんスか?アタシ以外に言い交わした人いるんスか?」
いや、式など挙げていないが、自分は夫婦のつもりでいたのに。愛し合っていた日々は何だったというのだ?
「よし、これが良い!喜助、儂これからちょっと出かけてくるからの!」
話聞いてないし。・・・というか、どこへ行くというのだ。答えも聞けていないのに。こんな気持ちのままでは落ち着かないどころか更に疑心暗鬼になる。
急いで夜一の後を追う。自分の知らない相手と駆け落ちでもされたらたまらない。
嫌な想像は膨らむばかり。
道の途中で何とか追いついた。
「何じゃ、おぬしついてきたのか?しょうがないのう」
夜一は事も無げに言ってのけた。ある教会のような建物の前に辿りつくと、ドアを開けてさっさと入っていってしまった。
おもむろに近付いて来た女性は満面の笑顔で夜一と話している。
「喜助、こっちじゃ」
黒いスーツの女性に案内されるがまま、喜助は訳わからないまま付いていく。
「こちらでございます。ごゆっくりどうぞ」
「はぁ・・・」
案内された扉の向こうには豪華な食事。
「あの夜一サン・・・、これは・・・?」
「ぶらいだるふぇあ、とかいう食事のお試し会じゃ」
正確に言うと、結婚式や披露宴で出される食事の試食会である。
「なんだ・・・、これの為にあの雑誌を見てたんスね・・・」
良かったような、なんと言うか、彼女らしいというか。
「ほれ、このケーキ美味いぞ。喜助も食ってみよ」
「アタシ、甘い物はちょっと・・・」
「おお、そうであった。では、儂らのときは、儂一人で食うことにしようかの」
「・・・え?」
今、アナタ・・・。
「夜一サぁぁン!やっぱりアナタにはアタシだけっスよね!そうっスよね!!」
「何じゃ、いきなり!これ離せ!肉が食えん!」
ぎゅうぎゅうと抱き締める。あぁ、良かった。と喜助は安心し、そして決めた。
いつか、ちゃんと式しましょう!アタシ、お金貯めます!
<終>
夜一サンは頭いいけど、色々鈍いといいと思う。