プレ クリスマス!

 

「よーう、お待っとうさん!悪いなぁ、つき合わせてもうて」
「いいえ、アタシも一人じゃちょっと心細かったンで、丁度良かったっスよ」
「ほな行こか」
平日の昼下がり。天気は上々。12月に入ったばかりでも、街は近付くクリスマスに合わせて、煌びやかなデコレーション。そんな華やかな街で、喜助と真子は待ち合わせて、共に買い物へ出かけた。
喜助はいつもの甚平姿ではさすがに目立つから、とテッサイに言われて、かっちりしすぎないジャケットにVネックのセーターと、それなりの服をまとっていた。
「こっちに居るんやったら、いっつもそういう服着とったらええのに。郷に入れば郷に従えて言うやろ」
「そうですけど、なんか落ち着かなくて。その点平子サンは馴染んでますよね」
真子の服装はとてもオシャレだった。喜助にはよく分からないが、一護が言うにはトラッド風とのことだった。
二人は気にしていないが、共に長身であり見目も悪くないから、人目を引く。
そんな二人が向かったのは某ファッションビル。目的はそう、クリスマスプレゼントを買うためだった。
「クリスマスの本来の意味なんて微塵も感じられませんよねぇ…」
「オレかて別にキリスト教でもなんでもあらへんけど、こういう祭りみたいなんは好きやし、祝っとけばええんちゃう?」
スカレーターで、目的の雑貨屋に付くと、本からパーティグッズやら色々揃う店に入る。真子はそこで携帯を開いてあらかじめメモしておいた品々を探し始めた。
「大体、何でオレがこんな買出しせなあかんねん。しかも一人て何や。こんなに仰山言いつけといて一人で荷物持て言う方がおかしいわ。両手に大きい袋抱えて街中歩くなんて、ただの公害やろ」
「あはは…。ご苦労様っスね。でも他の皆さんはなんで買出し一緒に来ないんです?来たがりそうなのに」
「あのなぁ、あいつらの性格よう考えてみぃ。ラブとローズは自分の気に入ったもんしか買わへんし、リサはチョイスが基本エロや。白は気まぐれで変なもん買うて、拳西はプロテインやら筋肉に関するもんが大多数やろ。唯一まともなハッチは今回食事係りや」
「あれ、ひよ里サンは?」
「あかん、あの小さい猿に荷物もたせたら、荷物に隠れてしもてどこに居るか分からんくなる。それに一緒に来ると、あいつへのプレゼントが買えへんしな。渡す前にバレてるんは楽しないやろ?」
値段と品物を見比べながら、真子はさらりと言ってのけた。
ひよ里サン、愛されてるなぁ、などと思いながら真子の後ろを付いていく。
 
途中、ジン太と雨によさそうな子供向けの商品を手に取り、喜ぶかなぁと考える。
「で、喜助は姫さんに何買うん?」
突然振られた話に、何も考えてなかった喜助は何とも返事が出来なかった。
「オレは今んとこピアスにしよ思てるけど、何やなんも考えてなかったんかい」
「えぇ、あんまり贈ったことないですし…。すっごい昔に櫛を贈って、ダメ出しされてからちょっとトラウマで。以来、食べ物にしてるんですけどねぇ…物の方がいいのかなぁ」
真子は夜一が大事にしている櫛のことを知っていた。それが喜助から贈られたものだと知ってはいたがバラすなと口止めされていた。
“儂にはこの一つで十分じゃ。あまり沢山あると、無くした時やどうしても持っていけぬ時に後ろ髪を引かれるからの”
確か、そう言っていた。随分昔の話だ。憶測だが、もしも藍染の一件がなく平和だったとしても、二人は駆け落ちするつもりだったのではなかろうか。だから大事な荷物は最小限、というわけだ。
「おまえ、愛されてんなぁ」
「は?」
「いや、こっちの話や。そや、姫さん甘いもん好きやろ、クリスマスの日に届くようになんか甘いもん注文したらええんとちゃう?」
「んー、そうっスね!そうします。じゃあ帰りに地下の食品フロアによって下さい」
おう、…あ、一護や」
真子が喜助の頭ごしに見つけたのは一護とチャドだった。あちらも二人に気付くと寄ってきた。
「よォ、買い物?」
「そや、クリスマスパーティの準備や。おまえらもか?」
「あぁ…、それもあるが個人的な買い物だ」
「チャドの時計買いに来たんだよ。前のやつ戦闘中に壊れたらしくてさ。浦原さんもパーティの準備?」
「いえ、アタシは荷物持ちっス」
「そっか。じゃあオレら行くわ。じゃな」
真子と喜助は顔を見合わせ、穏やかな平和に微笑んだ。
 
「さーて、ここまで来たら後は人にぶつかる心配もないやろ。助かったわ、ありがとさん」
両腕に紙袋、そして抱えるようにもう一つ大きい袋を手渡され、真子は前がよく見えなくなった。これを街中でやると人にぶつかりまくって、本当に公害だ。
「ええアタシも皆にプレゼント買えたし、一人じゃ行かなかったと思うんで助かりました。じゃあまた。皆さんに宜しく伝えて下さい」
「おお、じゃあな」
ドン。
ぶつからないと思っていたのに、何かにぶつかった。
「よう前も見えへんで、歩きなや!」
「ひよ里か?!なんで…?」
「もしも、アホが子供にぶつかって怪我させたらあかん思て、迎えにきたんや」
「アホってなんや、アホって…」
奪うように抱えていた袋を取り上げると、小さなひよ里と同じ位の大きいの袋を担ぐようにしてズンズンもと来た道を戻っていった。
「ほんま、素直やないなぁ」
それでも真子の頬は緩んで、サンタクロースのように荷物を担ぐひよ里を見た。
「置いてくで、シンジ!」
その光景を遠くで見ていた喜助は、平子サン愛されてるなぁなどと思いながら帰途についた。すると、トンと肩に黒猫が乗ってきた。
「その袋はなんじゃ?食い物か?」
「商店の皆へのクリスマスプレゼントです。夜一サンには大福買ってきましたよ」
「黒豆入りか?」
「もちろん」
黒猫は嬉そうに頭に擦り寄ると、機嫌良くはたはたと尻尾を揺らした。
存外、アタシも愛されてるンですかね。
 
<終>

微妙に企画部屋にある櫛とリンクしてたり。喜夜でUPするか、平ひよでUPするか迷いました。喜助が主人公っぽいので喜夜にUPするのが筋ですが、平ひよの作品少ないのでバランスみて、こっちにしました。