2
「解毒剤を…っ!」
効果があるのかわからない。けれど、少しは改善できるかもしれない、と机の引き出しから小瓶を取り出すと、喜助はコルクの蓋を乱暴に開け捨て、夜一の口元に押し当てた。
「これ、飲んで下さい!早く!」
しかし飲み込めずに、薬は夜一の口角から流れ落ちていく。
「…っ!」
小さく舌打ちすると、喜助は小瓶に残った琥珀色の液体を口に含んだ。
そして誘うような半開きの口腔内へ唇を合わせた。深く隙間がないように。
ゴクリ、…ゴクリ。
解毒薬はゆっくりと喉を通った。
しかし、二人は唇を離すことはなかった。
唇の表面だけ合わせたまま、一瞬、瞳が合う。
夜一の腕が喜助の二の腕から、撫でるように這わされて、そのまま肩に沿わされると、今度は喜助が戸惑いながら夜一の腰に腕を回した。
喜助の頭の中で鳴っていた警鐘は、どんどん、どんどん遠くに消えていく。逆にドクドクと脈打つ心音だけが全てを支配した。
スローモーションのように瞳が閉じられると、噛み付くような荒い口接けが始まる。
唾液と解毒剤に濡れた舌を絡め合う。
畳の上で、薄明かりが付いたままの室内で、声も殺さず女は啼いた。
低いベース音のような心音は早く、触れ合う皮膚は焼け爛れるように熱い。
互いの吐息と喘ぐ声にすら聴覚が刺激される。
既に硬く凝った乳首に舌を這わされると、夜一の体は跳ねた。
その瞳は焦点が定まらないまま天井を仰いで、荒い息だけが聞こえる。
キモチ良イ。・・・イイ…。
快楽にもう抗う術がない。知らない内に嬌声が口から逃げて、ただ、喜助の体に触れていたい。
首筋を唇で辿り、吸い上げる喜助の髪に指をさし入れ、頭皮を撫でた。
瞳を閉じて感じる。
「あぁ、喜助…、喜・助…」
熱に浮かされた瞳のままで何度も呼んで。
喜助は服を脱ぐのも忘れ、下衣を寛げると、性急にそのまま夜一の潤みに沈んだ。
大した前戯もないのに、すっかり潤んで飲み込んだ蜜壷は、待ち望んだ刺激に勢いよく吸い付いた。
モット奥マデ、来テ…!
後はもう互いに呼吸も忘れるくらいに、上下に動くだけ。
夜一も律動に合わせて腰を揺らした。
喜助は腰を振りながらも、夜一の胸を揉みしだき、乳首を指で弄った。
そうすると、夜一の内部がもっと喜助に吸い付いて気持ちがいい。
愛液が溢れて、動きを滑らかにする。
喜助が夜一の足を担ぎ、更に深く抉る様に腰を推し進めた。
ぐちゅぐちゅと、イヤラシく水っぽい音が部屋に響く。
夜一の口からはあぁ、あぁ、と感嘆の声しか漏れない。瞳は閉じたままで、それが一層感覚を研ぎ澄ました。
繰り返す律動。
アァ・・・・・・!
急に、痙攣のように夜一の体が大きく跳ねた。何度も、ビクン、ビクンと。
「ひっ……ア!!」
途端、夜一は目を見開き、喉を仰け反らせた。
喜助もきつく絡みつく内膜に、目の奥がチカチカ光ったまま、ぐっと奥に突き入れた。
果てたのはほぼ同時だった。
ひくひくと蠢く内膜の感覚に、ありったけの白濁を注いだ。
「…っは…」
深く溜息をついても弾んだ吐息は収まらず、その後も息が上がっていた。
崩れ落ちてきた喜助の体を抱きとめ、二人はそのまましばらく息が整うまで抱き合っていた。
喜助が飲ませた解毒薬は効いたらしく、あの後すぐに体の疼きは消えた。
夜一は喜助に敷いてもらった布団の上で、まだぼんやりとしていた。
喜助は窓辺でキセルを吸っては、夜空に向かってうっとりと白い煙を吐いた。
「怒ってる?」
「儂に怒る理由がない。…迷惑かけたな、喜助…」
「全然。アタシは役得っスよ」
「でももう薬は嫌じゃ。…おぬしの熱を、じっくり感じられないからの…」
喜助は嬉しそうに目を眇めると、もう一度キセルを咥えた。
数日後。
「ひよ里サン、あのゼリーですけど、あれ本当にひよ里サンが作ったんスか?」
「なんや、バレてもうたんか。あれな、シンジが作ったってんけど、あの日ウチ腹壊してて食えへんから、お前んちに用事あったついでにお前にやったんや」
「あれ、食べなくて正解だったかもしれませんよ」
「ごっつ不味かったんか?」
「いえ、美味しく頂きました」
「はぁ?意味分からん」
<終>
笑いのポイントはゼリーを作る平子サンです。その媚薬の調合者はもちろん浦○氏です。
喜助が食べた方が面白かったかもしれませんが、きっとただの野獣でしょうね。