12月22日。PM19:00の空座町。某ファミレスにて。
その場に全く似合わないオレンジ色の髪と、赤い色の髪をした人相の悪い高校生らしき二人が禁煙席でジュースを飲んでいる。
入店当初は店員・客たちの目は珍獣を見るかのようなまなざしだったが、危害が及ばなさそうだと判断すると、何事もなかったかのように自分の世界へと戻る。
「なぁ、恋次。そのデカい人形はいくらすんだ?」
「あ?聞いてどうすんだよ。大体お前ソウルソサエティの金持ってねぇだろ」
「浦原さんに換金してもらうよ。それかお前立て替えてくんねー?」
恋次と呼ばれた赤い髪の青年は、ストローを咥えたまま数秒思案すると、オレンジ色の髪の相手を見た。
「・・・まぁ、しゃーねーな。お前にソウルソサエティまで来いっていうのも面倒くせぇ話になるし。じゃあ、俺が買ってきてやるよ」
「悪ィな、恋次。頼むわ」
ハタから聞いていれば、全く理解不能な世界の話をしつつ、時折笑いながら会話する姿は実に楽しげに見える。
小一時間過ぎたかどうかの頃、二人は店を出た。外は寒そうだ。
飲みきったジュースの氷が、クリスマスベルのようにカランとなった。
12月23日。AM11:00、浦原商店。
「へぇえ、黒崎サンってば義理固いっスねぇ。じゃあこれがアッチのお金です」
「あぁサンキュ、浦原さん。でも別にギリ固いわけじゃねーんだ。大人でも贈るだろ?お歳暮とかなんだって」
「まぁお世話になった人にってやつですよね。…アレ、それじゃあおかしいなァ。稽古をつけたアタシには無いんスか?お歳暮」
ニヤニヤ笑いながら、季節外れの扇子を手元で遊ばせながら、帽子の影になった瞳が一護をからかう。
「や、…その、あ…」
「冗ー談っスよぉ!黒崎サンには今年沢山働いてもらったンで、それで十分っす」
扇子をはためかせ、カラカラ笑う店主に一護は安心するが、何もお礼できない事を素直に謝った。そして稽古を付けてくれた感謝と。
「いや、ほんと何もできなくて悪ィ。けど浦原さんにはスゲー感謝してる。ありがとな」
「ふふ、そんな屈託無い笑顔で言われちゃあアタシは何もねだれませんよ。ま、来年もご贔屓にお願いします」
ガラリ、と店の戸が開いて、冬の冷気と共に駆け足の音がする。
外で遊んでいた小さな従業員二人が目を輝かせて店内に入ってきた。
「店長!雪降ってきた!雪!」
「喜助さん、雪…」
桃のようにほんのり紅くなった冷たい頬を大きな掌で撫でると、間接的に外の寒さを感じる。
「寒い寒いと思ってたんスよねー。ついに降りましたか。あ、黒崎サン傘お貸ししましょうか?」
「や、いい。あれ位なら濡れても大したことねぇよ」
店の外を見遣ると、重く圧し掛かった鉛色の雲からチラチラと舞う白い雪。
まるで綿菓子のようだ。
きっと妹達も喜んでいることだろう。そのほか、雪のまつわる刀を持つもう一人も。
足早に店を出ると、凍えるような外気に身を竦ませるが、徐々に慣れてくるから不思議だ。
吐き出す吐息は、雪のように白く、雪のように儚い。
12月24日。午前中から同級生たちとクリスマスイヴパーティ。
所々でクリスマスソングが流れ、商店街では煌びやかな装い。
結局、明日もクリスマスという名を借りてこうして集まる予定だ。いつもの面々と代わり映えのしないクリスマス。それでも楽しい。
時刻も過ぎ、夕飯時。家に帰れば、暑苦しい父親はド派手なサンタ服を纏い、妹二人はクラッカー片手に一護を待っていた。壁に盛大に飾られている母の遺影もクリスマス仕様だ。
今日一日ずっと一緒にいたルキアは、どこにいても目新しいのだろう、大きな目を煌々とさせて楽しんでいた。
「おにいちゃん!早く座って座って」
「はい、これ一兄のクラッカーね!」
妹たちにせかされ、背を押されるように椅子に座らせられる、頭にめでたいトンガリ帽もかぶせられ手にはクラッカー。げんなりと隣を見ると、楽しそうにはしゃいでいるルキアに何も言えなくなる。
「では!黒崎家恒例のォォー!イヴだけど、ドキドキ!!食い倒れ大食いメリークリスマスゥー!!」
毎年の如く意味わからない父親の号令で、一斉にクラッカーが鳴った。
12月24日。PM23:45、一護の部屋。
「はぁー、くりすますとはこうも楽しい行事なのか。ぜひソウルソサエティでもやってもらいたいものだな!」
元の意味すらも理解してないルキアは、満足そうに頷いて、一護のベッドに座り込んだ。
妹たちは既に夢の国。父親は風呂で鼻歌を歌っている。
突然、窓ががらりと開くと馴染みの顔が覗いた。
「よぉ!一護、ルキア!間に合ったか?」
「恋次!何しに来たのだ?くりすますぱーていはもう終わったぞ」
「そのために来たんじゃねーよ」
一護に一抱えある大きな白い袋を見せる。恋次と一護は目で合図する。
時刻は間も無く午前零時。
「今年一年世話になったからな。オレと恋次からオマエにプレゼントだ」
きょとんとしているルキアは白い袋を中心に左に一護、右に恋次を交互に見遣る。
「さっさと開けろってーの」
おそるおそるリボンに手をかけ、しゅるっと音と共にひも解かれる。
そこに現れた物に目を見開き、口許を綻ばせる。贈り主二人が声を揃えて。
「メリークリスマス、ルキア」
「こっ、これ、本当に私がもらっていいのか?」
「お前以外に欲しがるヤツいねーよ」
大きなチャッピーのぬいぐるみ。うさぎの人形だが、ルキアはこのマスコットがとても好きなのだ。
「ついでに言うと、これはオレと一護と朽木隊長からだ」
目の前のプレゼントに興奮気味のルキアが聞いていたか分からないが、恋次はそっと一護に事の経過を説明した。
「これ買ったの実際隊長なんだよ。丁度持ち合わせが足りなかったとこに偶然通りかかって、ワケ話したら買ってくれたんだ」
「…それ偶然じゃねーだろ。お前アト付けられてたよ、絶対!」
「一護!恋次!ありがとう!!大切にするぞ」
満面の笑顔で言われて、顔を見合わせた二人の気持ちもほんのりと温かくなった。
シャンシャンと鈴の音が聞こえてきそうな静かな夜に、またチラチラと白雪が舞い始めた。
<終>
主役の話がほとんど無いことに気付いたので、思いつきで書いてみました。時系列っていうのをちょっと意識しました。ちなみにルキアが喜んだことを知って、スポンサーの白哉兄もご満悦なのです。贈り物、ワカメ大使の人形にしようとしてましたから、この人。