冬の静かな夜。浅い眠りは小さな物音だけで、目を覚ます。
広い敷地。沢山の従者。これ以上無い環境なのに、満たされない何か。
孤独感なのだろうか。自分の感情には昔から疎かったような気がする。
死神として、この朽木家の跡継ぎとして、強くなることを望まれてきた。
すっかり眠気が失せてしまったから、月の灯りを頼りに外に散歩に出かける。
家の者に出かける旨だけ伝え、簡素な上着を羽織り出かける。
あては無い。
ただ静かなこの夜の季節を楽しむだけ。
自分の歩く足音だけしか聞こえない。
吸い込む空気の冷えた温度と、吐き出す息の白い曇り。風は緩やか。
空を見上げると雲一つ無い、ビロードを敷き詰めた夜に輝く月。満月を過ぎて欠け始めているが、足元を照らすには十分だった。
足元に小さくわだかまる何かを感じて、ふと目を向けるとくぅん、と鳴く子犬がいた。
茶色っぽい色のそれは毬のように小さく丸い。
持ち上げてみると、またくぅん、と鳴いた。
黒くつぶらな瞳は怖れることなく真っ直ぐにこちらを見ている。
小さな尻尾ははちきれんばかりに左右に振り続けられている。
愛らしい相貌になんとなく捨て置くことが出来ず懐に抱えると、元来た道を戻った。
家に着くと、夕飯の残りを用意させ、子犬に食べさせた。
小さい口を一生懸命動かしている姿を眺めていた。
翌日、屋敷の従者の中で犬好きの者がいたので、子犬をやった。
特別に屋敷の中で飼ってよいこととした。
そうすれば、皆で愛でられる。
月冴えの中、思わぬ拾い物をした日だった。
<終>
オフィシャルキャラブックを目閉じて開いた時に、一番最初に目に入ったキャラの話をかこうと決めてやったら、白哉兄様でした。犬好きかは分かりませんが、書いてみました。
開いたページが、メノスとかシュリーカーとかヤラレキャラじゃなくて良かった…。