大晦日、大方のテレビ番組もクライマックスを向かえ、新年へのカウントダウンが始まる。
浦原商店の居間で、こたつに入ってみかんを貪る夜一と、お茶をすする喜助。テッサイは後片付けに勤しんでいた。雨とジン太は夜中に初詣に行く!と張り切っていたのだが、今はすっかり夢の中だ。
そしていよいよ除夜の鐘が鳴った。時計も零時を指している。
「お誕生日おめでとうございます、夜一サン」
「うむ。まぁ、今年も宜しくな」
みかん食べながら、漫然と受け応える。
「何か欲しいもの、ありますか?」
「んー…、別段ないのう。大体おぬしはどうなのじゃ。昨日同じコトを聞いたら、考えておくと言ってそれっきりじゃぞ」
「はは、まぁアタシ達は今更って感じですからね。あ、そうだ。じゃあお願い一つ聞いてください」
夜一が喜助を一瞬白い目で見たから、喜助は慌ててフォローした。
「エロいお願いじゃないから、大丈夫っスよ!」
葛籠(つづら)の中から丁重に取り出したのは、紅色が綺麗に発色されている着物だった。
「これ、着て見せて欲しいんス」
「喜助、まだこれを持っておったのか。あれほど売れと言ったのに…」
「ええ、言われた通り売ろうかとも考えたんですケドね。でもこれ一番似合うのはやっぱりアナタしかいないと思うし…。まぁとにかく着てみて下さいよ!」
この紅色の着物は夜一が追放される前に辛うじて持ってきたものだった。金銀の麗美で繊細な刺繍と生地の色の良さ。売ればまとまった額になるだろうと考えてのことだった。
自分で売れなかったのは、着物の値段や駆け引きを知らないことと、やっぱりこれが気に入っていたからだった。
「着替え終わったら、下に来てください。待ってます」
そう言って先に居間へと戻った喜助は、またこたつに入っていった。
夜一は困ったような、でも少し嬉しいようなどっちともつかない顔で、着替えを始めた。
「どうじゃ、喜助?」
姿を見せた夜一が照れくさそうに声をかけると、喜助は振り向いて一瞬瞠目し、そのあとただじっと彼女を見つめた。
「どうじゃと訊いておる」
喜助は少し笑った。
「とてもお似合いです。でも似合いすぎてて、アナタが隠密総司令官になった時の儀を思い出しちゃいました」
そう、あの時も赤い色合いが多く使われた着物だった。多くの黒衣の従者を従えて。
「もう克服したと思ったんスけどね。やっぱりまだ引っかかるや」
「…何がじゃ?」
言わせたかった。遠く離れることが寂しい、と。喜助の薄い唇から。
「分かってるくせに。ズルイ人だな」
「儂の誕生日の贈り物はそれがいい。だから言え」
喜助はそっと立ち上がり、夜一の手を取った。視線を合わせてしっかり向き合う。
「アナタがそばに居ないと、凄く寂しい。だから、これからも隣に居て下さい」
「うむ、まぁ良かろう。よくできたの。」
「お誕生日おめでとう、夜一サン」
「誕生日おめでとう、喜助」
<終>
喜助夜一ハピバ!!喜助としては1日遅れですが許してください。意味不明だったらすみませぬ。