色々1

 

あったかい太陽、お昼寝、もふもふ。
七番隊の隊首室で、狛村隊長は業務に専念…したかったのだが、小さなお客に邪魔されていた。
隊長の胸元に顔を埋めるように、ピンクの髪の毛が覗いている。
「草鹿、これでは仕事ができないよ。いい加減起きなさい」
「うぅ~」
うなっただけで、またすやすやと寝息をたてる。
「っちょお、ワシかっ飛んで一角呼んでくるけぇ、待ってて下さい!隊長!」
「あ、イヤそこまで…。早いな、射場…」
威勢の良い副隊長は、呼び止める間も無く十一番隊へと走っていった。
懐に穏やかに眠る少女。己よりも何倍も小さな手は、しっかりとしがみ付く様に死覇装を掴んでいた。
「わんわん…」
寝言だろう。
鉄笠を外して正体を晒してから、周囲の人物の気安さが増した。
特にこの少女は最近事ある毎になついてきてくれる。
かわいいものだな。笠を取って、良かった。
「これも元柳斎殿の恩恵か…」
一人ごちた時、がばり、と少女が起きた。
「そうだ!じいじのところにおやつもらいに行かなきゃ!」
そういって胸元に二・三頬を摺り寄せると、ぴょんと飛んでいった。
「バイバイ!またねー」
屈託のない満面の笑顔で手を振られる。
それに返して手を振る。あの子がいると仕事ははかどらないが、心は和む。
「また来るが良い」
聞こえたか、否かの声で告げた挨拶。次回の来訪を楽しみとしよう。
 
「一角!おまえンとこの副隊長のせいでウチの仕事が滞ってるんじゃ!何とかせい!」
「あんの豆粒はまたー!!どんだけあのモフモフ気分味わってんだ!」
「…もふもふ・・・?」
                                <おしまい>
 
「ひーよ里~♪、遊びにきたで~」
「うわ!酒くさっ!っていうかオマエ五番隊やろ!さっさと帰り!」
「ボクと一緒に呑んでたんスよ~♪ささ、ひよ里サンもご一緒にいかがっスかぁ?」
酒瓶をもって現れた隊長と、他隊の隊長はひよ里の部屋へ入ろうとしてきた。
「うわ!ウチの部屋に勝手に入んなや!ボケェ!」
「じゃー、ボクの部屋で皆で呑みましょー」
「オレ、ここがエエ。喜助の部屋なんぞ行かん。ひよ里~、今夜泊めてぇな~」
腰にまとわりついてきたシンジを肘でどついた。酔っているせいで、過剰なスキンシップに顔が赤くなる。
「何でウチがオマエを泊めたらなあかんねん、このハゲ!しばくど!さっさと喜助の部屋行き!」
「喜助!オレ今日ここで寝るわ。ほなお休み!」
「は?!何言うてんねん!帰れ言うとるやろ!寝るな!」
「え~っ、もうお開きっスかぁ?飲み足りないっスよぉ~、平子さぁん!」
シンジは伝令神機を取り出したと思ったら、どこぞに連絡を取り始めた。
「そう、十二番隊舎や。うん、うん、そう。ほな宜しく。早よ来てな」
ピッ。
「誰にかけたん?」
「夜一。今すぐ来るて。オマエのために呼んだったんやさかい、オレに感謝せぇよー」
「平子さぁん!ダメっスよぉ~!ボク、こんな、お酒の勢いで襲っちゃいますよう!」
にやけ顔のまま、照れたようにくねくね体を揺らす喜助を気持ち悪そうに見ながら、ひよ里は意味が分からなくて首を傾げた。
「何やねん。意味分からんわ!っちゅーか、いい加減、腰から手ぇ離せこのエロハゲ!」
「そらきたで~」
夜の闇に紛れて、夜一が姿を見せた。
「随分飲んでおるようじゃなー。酒臭くてかなわぬ」
「夜一、夜一。喜助がな、○○○してほしいんやねんて」
バキッ。
骨の軋む音が聞こえた。
「喜助…、おぬしいい根性しておるのぅ。ちょっと顔かしてもらおうか」
「えっ、…えぇえ!ちょ、嘘ですってば!平子さぁあぁぁぁん!」
ドップラー効果の如く引き摺られ遠ざかる喜助の声に、ひよ里は少し憐れに思ったが、シンジが何を言ったのか意味が分からなかった。
「シンジ、なんやのそのフェ…なんとかって」
「よしよし、じっくり教えたる。まずは部屋入らんと!」
腰を引かれるまま、自室に入るとぴっしり襖を閉められた。
静かになった十二番隊隊舎から、バチーンと大きな音がした。
続いて、大きな物音がして、ずり落ちそうな袴を必死に押さえたシンジが飛び出してきた。
「乙女の前に何晒すんじゃ、このボケェー!!二度とその面みせんな!」
「なんやねん!オマエが訊いたから教えたろう思って…うわ!刀飛ばすな!」
ほうほうの体で自分の隊へと戻っていったシンジに、罵声を浴びせつつ頭頂部まで上がった血の気がしばらく治まらなかった。
 
次の日隊主会で、同じ側の頬を掌形に腫らした二人の隊長の姿があった…。ちーん。
<おしまい>
 
「出来たよ、ネム!これで今年の豆まきは完璧だヨ!」
「おめでとうございます、マユリ様」
「このマシンガン型豆鉄砲で、鬼に扮したヤツらを一撃で仕留めることができるヨ。殺傷能力は鬼道クラスだヨ!…で、今年の鬼役は一体誰だネ?」
ネムの指はまっすぐマユリに向かって指していた。
「きぃ!面白くないネ!早速裏工作して、六番隊の阿散井辺りにでも鬼役を押し付けて来るんだヨ、このぐずのろ!」
「はい、マユリ様」
 
二月三日、節分。
「鬼はー外ぉー、福はー内~」
「おお、やってるな。今年の鬼は誰だったっけ?」
「あぁ浮竹、出てきたんだ。今年は違うだれかだったんだけど、阿散井くんが代わったみたい。…にしても…」
浮竹と京楽は、恋次の鬼に扮した姿を遠い目で見ていた。鬼役は凄い勢いで豆を投げつけられていた。
「ねぇ浮竹、ラムちゃんって知ってる?」
「…いや、知らないな」
「うん、じゃあいいや」
 
「まったく、あんな情けなさそうな鬼では豆鉄砲が撃てないヨ!しかもあんなに豆を投げつけられていたら、撃ったとしても他の豆に当たって威力が落ちてしまうじゃないカ!あんな衣装を着せろとは言ってないヨ、ネム!」
「すみませんマユリ様。当初あの衣装は朽木ルキア、雛森桃用だったのですが、二人から彼に押し付けられたようです」
「使えないネ!気分を害したヨ。仕方ないから豆鉄砲を撃つのはまた来年に取っておくことにするヨ。」
「はい、マユリ様」
この日恋次は、「なんで、オレこんな目に合ってるンだろう…」と現世の一護に相談しに行ったらしい。
一護はただ一言、「だっちゃとか言っとけばいんじゃね?」と軽く流したそうだ。
                                  <おしまい>