3月14日

3月14日 

日曜日の昼下がり。
夜一は喜助の部屋を独り占めして、我が物顔でごろごろしていた。
テッサイが作ってくれた昼食をたらふく食べた後だから、より午睡への誘惑にまどろむ。
 
昨日降った雨の名残など微塵もない快晴の中、雨もジン太も外に遊びに行った。
最近一護の妹達他とよくつるんで遊んでいるようだ。食事時の話題にもよく上る。
 
「元気でよいことじゃの…」
 
小春日の温かな陽光に照らされ、猫のように体を丸めて穏やかな独り言を呟く。
 
瞼が閉じ、眠りに落ちる瞬間だった。カラリと襖が開いた。
入室を確認しないのは彼がこの部屋の主だからで、部屋の真ん中で寝転がる客人に遠慮する素振りもなかった。
当り前のように彼女は居て、当り前のように彼も居る。
 
押入れを開けると、よっこいしょと掛け声をかけて敷布団だけ取り出すと、彼女の隣に敷いた。ちゃんと枕も置いてやる。
 
「ホラ、こっちの方が寝心地良いっスよ。寝るならこっちになさいな」
 
優しい声音で促されるまま夜一はごろりと一回転すると、ひんやりとした布団の上に収まった。
温かかった陽光に慣れた肌には布団はとても冷たくて、何度かもぞもぞと動く。
 
「そういえば今日はホワイトデーらしいですよ。夜一サン、何か欲しい物ある?」
 
ショートパンツからのぞく褐色の滑らかな足は、喜助の目を楽しませた。つい、悪戯したくなる。
眠たいのに、うるさいのう。と不機嫌な小さい声がした。
目を擦る仕草が幼さを感じさせて、可愛らしい。
 
「はいはい、スイマセン。じゃあ後にしましょうかね。忘れちまうかもしれませんケドね」
 
こんな物言いをする時の喜助は、ちょっと面白くない時だ。
夜一はきらきら光る金色の瞳を片方だけうっすら開けて、煙草をふかす喜助を見遣った。
 
「……欲しい物など何もない。…肩と腰が凝っておるから、丁度良い。揉め」
 
ぞんざいな物言いだが、おかまいなしに喜助は煙草の火を落とすと、はいなと応じて黒羽織を脱いだ。
うつ伏せになった夜一に跨って、骨ばった大きな掌は彼女の肩を揉み始めた。
 
 
春色のシャツは喜助が手を揺らすたびに、波のようにさざめき立つ。
彼女の肩も腰もそんなに凝っていない。入れる力も軽くを好む。
 
「どうっスか?気持ちいい?」
 
うとうとと眠気も相まって、夜一は満足気に頷いた。
 
「うむ。おぬしは本当に上手いのう…」
 
実際、喜助はマッサージが上手い。
駄菓子屋ではなく、こちらで商売した方がいいのではないかと思うほど。
以前それを言うと、喜助は笑って否定した。
 
“アタシは、夜一サン専属なんスよ”
 
もったいないことだと思ったが、心のどこかで彼を独占出来る事になんとなく優越感があった。
つぼを心得た喜助の指の動きに、心地よさを感じたまま、次第に規則的な寝息が聞こえてきた。
 
 
細い首筋から肩。肩甲骨の窪みから滑らかな背中。くびれた腰を指で揉み上げる。
そのころにはすっかり彼女は眠れる森の美女というわけだ。
 
長い髪を首からそっと布団に流し後ろ姿をまじまじ見ている。腰で止まっていた掌は、小さくて引き締まっていながら女性特有の丸みを帯びた臀部にそそられる。
 
(…ここで下心出すと、さすがに怒られるっスよねぇ…)
 
怒られるだけではなく、次にはマッサージさせてはもらえなくなるだろう。
 
手持ち無沙汰の手を、溜息と共に離すと階下へと身を引き下げた。
すると、空の買い物袋をぶら下げたテッサイと目が合った。
 
「む、夜一殿は午睡中ですかな?」
 
「そうなんスよ。アタシも構ってもらえないんで、降りてきました。子供たちはまだ外?」
 
「おそらく夕刻まで帰ってこないでしょうな。今日は野球の試合をするとか言っておりましたから。では私は夕食の買い物と以前言っておりました調査の集計をしてきますので、しばし留守をお願いいたします」
 
「あ、はいは~い。いってらっしゃい」
 
物事は、自分の都合の良い方に流れてしまった。
今この家には、彼女と彼の二人きり。家人はおそらく二時間は戻ってこない。
夜中まで待ってもいいが、邪魔が入らないとも限らない。
扇子を弄びながら広げるとそのままパタパタと二・三度仰いだ。
 
「据え膳食わぬは…ってヤツですかね?」
 
 
 
喜助が部屋に戻った時、夜一は仰向けに寝ていた。
寝息と連動して胸郭が動く。その動きで豊かな乳房が動いているように見える。
背筋を撫でていた時にも思ったが、彼女は下着をつけていない。
今も胸の真ん中には、その存在を主張するかのようにぽつりと小さな突起が見えた。
 
「ねーぇ、夜一サーン…」
 
小さく声をかけても彼女は起きない。
彼女の半開きの唇からは、今も寝息が聞こえる。
小さな物音にも敏感な彼女が、自分の前ではこうも無防備でムラムラする。
 
「ちょっとだけ、お邪魔しますよー」
申し訳程度の断りを入れて、そっと両手でシャツをめくった。
 
午後の陽光は、淡い光で褐色の双球を照らす。
真昼間からこんないけないことをしている背徳感に、とても興奮する。
 
彼女に覆いかぶさると、胸に顔を押し当ててその弾力を楽しんだ。
トクントクンと心臓の音がする。
温かい谷間に頬を当てたまま、うっとりとした視線は紅色の乳首をみつめていた。
爪の短い指先でその輪郭を確かめるように何度もなぞりすべる。
その動きに反応して、乳首は固く勃ちあがった。
 
(ああ、たまらない…)
辛抱できずその乳首を舌で絡め取ると、食らうようにむしゃぶりついた。
 
唾液が溢れて口角から零れるのも気にせず、彼女の甘い体臭に溺れるように吸い付く。
美味しいキャンディを舌で転がし、歯で甘噛む。
片方の乳房にも手を這わせ、乳首を弄った。その時だった―――。
 
「…おぬし、何をしておるのじゃ…」
 
頭上から響く、怒りと呆れを含んだ低い声。
 
「あ…いやー。お早いお目覚めで…」
「…何をしておるかと聞いている」
 
「や、そのぉ…。可愛いなぁって思ってたら、ついふらふら~っと…」
 
「ついふらふらっとで乳を吸っておったのか?やる気満々で何をぬかす!」
 
夜一の膝が喜助の股間に押し当てられ、ぐりぐりと刺激する。
そこは既に勃ち上がっていたから、喜助も言い逃れできない。
 
「今日はホワイトデーとやらで、儂はお返しを受け取る方だと思っておったのだがの」
 
すると、パン!と勢いよく両手を合わせて拝むように夜一を見た。
「夜一サン!ちょっとでいいんス!さくっと入れてさくさくっと腰振って、さっさと終えますから!ね?」
 
「何が、ね?じゃ!儂の安眠を妨げよって!」
だって…といじけながら、乳房を掴んだままだった喜助の指がピンと乳首を弾いた。
「っあ!」
 
「ねェ…、お願いっスよぅ。今なら誰もいないからさ…」
 
言いながら、唾液に濡れた紅色を弄ることを止めない。
 
「この万年発情男め…!よ、夜中まで待てぬのか?」
 
「夜一サンは待てるの?こんなに感じてるくせに、止めても平気なの?」
内腿を擦るような足の動きが、燻るうねりを知らせる。
 
「だからって、こんな昼間に…」
 
「こんな時じゃないと出来ないじゃない。誰もいない昼間なんて貴重っスよ」
 
ごり押しされて、敏感な部分を刺激されて。それでも躊躇した途端、口を塞がれた。
口接けで、迷いを封じる。
そのまま有無を言わせずショートパンツを下ろすと、陽光に銀糸引く愛液が見えた。
 
「これならすぐ入れてもよさそうっスね」
機嫌を伺うように覗き込まれた瞳に、困惑しつつももう覚悟は決めている。
 
「おのれ!覚えておれ!」
と言い放ち、喜助の首に褐色の腕を回した。
 
 
促されるままに足を開くと、すぐさま喜助が入ってくる。
性急なはずなのに昂ぶるのは、昼日中という背徳感のせいか、それとも全て照らし出されているという羞恥心からか。
 
なめらかに腰を動かせるほど濡れていて、それでいてきつく締め付ける。
 
部屋の酸素を全て吸ってしまうのではないかというほど呼吸を荒げて、腰を揺らす。
肉を打ち鳴らす音が外まで響くんじゃないかと怖れるほど、さらに感度が増す。
 
「…あ、…っ…んっ、…んっ…ァぁ…」
 
妖艶な媚態をくねらせ、甘い吐息が嬌声を伴って抜け落ちる。
 
光の中で交わす情は刺激的。
 
普段から顔を隠したがる夜一の、上気した頬に切なげに寄せた眉根は壮絶に色っぽい。
 
爆ぜてしまいそうなビートの中、速度が上がる。
何度も電流が背筋を走る。
 
 
「ん!は…あっ!あぁっ、喜助ぇ…――――!!」
 
 
 
 
 
夕食後。
「なぁテッサイ、今日の店長と夜一さん気持ち悪ぃよ!なんか目が合うたびぱっとそっぽ向いて。かと思うと、二人でなんか照れてるし。何あれ?」
「…春ですな」
                                    <終>
 
発情期というやつですかな…。ちと早いか。
ジン太・雨が居るようになってから昼間にはしなくなってたので、久しぶりにやってみたら、テレるほど良かった、と。いうオチです。
しかし私、マッサージで止めるはずだったのに、なぜこんなことに・・・。