おそらく近日中に、”彼ら”は来る。
『前の日』
空気がやけにシンと凪いでいる。夜も更けたというのに、気持ちだけ高揚したままで寝付けない。
幾度も寝返りを打つと、隣に横たわる彼女が静寂を破った。
「眠れぬのじゃな」
「…ええ。遠足の前日の子供みたいな気分です」
彼女はふふ、と微笑するとボクの方に向かって寝返りを打った。
「そんな心浮き立つ相手だとはな。妬いてしまうの」
そう言った彼女の体をボクの腕は強い力で引き寄せた。
驚きもしない彼女は、されるがままになって。それでも嫌そうではなくて。
どうしてアナタはこんな時まで、気持ちを凪いでいられるんスか?
「何が不安なのじゃ?崩玉か?それを取り込んだ藍染か?…それとも、誰かを失うかもしれぬ恐怖か?」
気持ちを看破されたようで言葉に詰まる。本当に何もかもお見通しなんだから。
「…ボクは…誰も失いたくない。都合いい話なのは分かっているけど。…でも一番はアナタをもう抱けないかもしれないという不安っス」
彼女の手がボクの背中を上下に擦る。優しくやさしく…。
「おぬしを一人で逝かせはせぬ。おぬしは儂が護る」
「そんなの、嫌っス。ボクは護って欲しいンじゃない。ただ、ボクが死んだあと、アナタが誰かに心を許すのが嫌なんスよ」
彼女は突然ボクの脇腹をぎゅっと抓った。
「いっ…!!」
「大莫迦者におしおきじゃ!大体何を弱気になっておる!おぬしは死なんし、儂も死なん!第一儂がこれほど心許す相手など他にはおらぬ」
抓った脇腹を今度は優しく撫でるように、彼女の指がボクをなぞる。月光を反射した瞳が、強くボクを射抜く。
「…儂は、おぬしと生きるために戦うのじゃ。その過程で崩玉も藍染も邪魔だから片付けるだけじゃ。おぬしは、ずっと前に儂に約束してくれたであろ?忘れたか?」
「覚えてますよ。…この命ある限り、ずっとアナタと生きると」
彼女がボクの肩口に頭を寄せた。彼女の温もりも、はき出す吐息も、優しい匂いも、全部ボクのものだ。
そして余すところなく、ボクも彼女のものだ。彼女がボクを生かし、ボクが彼女を生かしてる。
そんな大それたこと考えてしまった。でもあながち間違ってないだろう。
ああ、そうだったな。
うん、そうだ。
「事が片付いたら、一緒に日向ぼっこしましょうね」
「うむ、日干ししておいたふかふかの布団も用意しておくのじゃぞ」
ああ、とっても気持ち良さそうだ。
他愛ない日常と、大事な約束を守るために、ちょっとした後片付けなんだ。
大丈夫。
きっと。
いや、絶対に。
<終>
ちょっとへたれた喜助。夜一サンを戦いに出したくない気持ちとか色々ごちゃごちゃ考えて煮詰まって、夜一サンに怒られればいい。