さよなら

 

瞬速の女神は、今日も容赦なく敵陣を搔き乱し、吹き抜ける風の如くあっという間に決着をつける。
 
彼女とは随分長い付き合いだ。
 
その関係は決して浅いものではない、とボクは思っているけど、女王様はボクのことさほど深くは思ってないかもしれない。
 
言葉で確認なんてしたことがないから、確信は持てないんだ。
 
 
でももう今更そんなことは、どうでもいいのかもしれない。
 
 
明日、ボクは彼女を置いていく。
 
 
ボクは現世へ行く。
 
藍染がしていた研究はきっとボクとひどく似通っていて、彼はもう一人のボクなんだろう。
 
「ボクもきっと狂気を孕んでるんでしょう。自覚がないだけっスかね?」
 
変化した平子サン達に問うてみても、何にも答えちゃくれない。
 
あぁ、朝になる頃、変化はあるのかな。ボクの読みは残酷な答えしか導いてくれないけれど、どうしても捨てきれない希望がボクの影を縫い留める。
 
明日。きっとボクはここにいない。
 
彼女はどんな顔をするのかな。
 
どうして何も相談しなかったかって怒るかな。
 
置いていくことを怒るかな。…怒ってくれるのかな…。
 
ボクは、アナタには云わない。云えないよ。
 
「ボクと一緒においで、なんて。云えるわけナイじゃないスか」
 
なんでや?云うてみればええやん。
 
血の気のない仮面は動かない癖に、幻聴は聞こえてくるなんて。
 
ボクは勝手に彼女を愛してる。だから、分かってて不幸の道連れなんてできないっスよ。
 
ウソつけ。振られるんが怖いンやろ?
 
「あはは。いやだな、見透かされてるや。…でも、やっぱり云えないっスよ…」
 
好きとか愛しているだけじゃ駄目なんだ。女王様はやっぱり輝く王座に座っていなきゃ。
 
あぁ、でもやっぱり少し、寂しいや。
 
 
愛してる。愛しています。アナタを。
 
アナタだけを。
 
云えないボクをどうか許して。そしてどうか忘れないで。
 
 
<終>
 
平子が仮面発症して、次の日査問にかけられる前の夜の話。喜助はきっと色々悟ってたと思う。
夜一サンはきっとその色々を言ってくれるのを待ってたと思う。なんて妄想。切ない風味でお送りしました。
結局追ってきた夜一サン、ブラボー!ラブだ!