Dive

 

一周年です!Bar-kuronekoに来て頂いた皆さま有難うございます!
 
彼女は名前の通り、夜が似合う。
上質の絹を思わせるその肌は、この闇みたいに吸い込まれる魅力がある。
 
「酒は好かぬ」
「まぁまぁ。これなんてジュースみたいなもんスよ。好きでしょ、ジュース?」
 
唇を尖らせてそっぽを向くと、指先でグラス弄ぶ。
滅多に来ないバーに来ようと思ったのは、最近二人きりになっていなかったから。酒の嫌いな彼女を言い含めてようやく連れ出した。
 
「おぬし、儂を酔わせてどうする気じゃ?」
「あは、分かってるんでしょ?アタシの魂胆なんて、いやらしいアナタはいつでもお見通しじゃないっスか」
「さて、見当もつかぬな」
 
狭いカウンターに並んで顔を覗きこむと、言葉遊びも艶めいて二人を魅了する。
嘯いた彼女の唇がようやくグラスに口付ける。
喉を滑り落ちる甘い液体は、直ぐには正体を見せない小狡い媚薬。
彼女の体を内から燃やして、昂らす。
 
「喜助、これはなかなか飲みやすいの!」
「でしょー?ささ、遠慮せずもっと飲んで下さい!」
「…部屋は取ってあるのか?それともちゃんと連れ帰ってくれるのか?」
 
ああ、ほらやっぱりお見通し。
いくら満たされても強請ってしまう悲しい男の性をどうか許して。
でもそれは彼女に恋しているから。
彼女の声が耳を滑るたび、体の芯が疼きだす。
条件反射じみた体の火照りは、付き合いが長い分だけ増していく。
 
「こんな男にしたアナタが悪いんスよ」
「元々の性分を儂のせいにするな。それを言うなら儂の純潔返せ!」
「嫌っスよ。奪ったものは返せないっスよーだ」
 
クスクス笑う彼女は、体中に回り始めた甘い脱力感に金色の瞳を潤ませる。
あぁ、あと少し。
彼女が肩にもたれ掛かるまで。
そしたら二人きり、闇色の世界にダイブするんだ。
    
                     <終>