深夜二時を無音で告げた時計は、それでも動くことを止めない。
ぐるぐる回るだけの単調さで、電池が尽きるか、部品がイカレるかの気長な追いかけっこを続けてる。
気温は十二月らしい寒さだけで、一向に雪も降らないクリスマスの夜。
部屋で眠る雨とジン太の枕元にそっと、偽のサンタクロースがプレゼントの包みを置いた。
足音も立てず自室に引き上げた偽者は、暖かい布団にそっと忍び入り、中で横たわる美女の隣に体を投げ出した。
「ご苦労だったの。子供らは寝ていたか?」
「ええ、そりゃもう、ぐっすりっス。日頃の感謝も込めて、テッサイの部屋んとこにも置いてきました」
褐色の肌をした美女はクスと笑った。明日の、テッサイの様子が目に浮かぶ。そうしてからかい混じりで偽物サンタに訊ねるのだ。
「で、儂にはないのか?」
「勿論、夜一サンにもありますよ。このヌルヌルした…」
満面の笑みを浮かべた美女は、がっと勢いよく喜助の口を掴んで言葉を封じた。
「…毎年恒例のえろい物は却下じゃぞ」
「えー…、じゃあ無いっス!」
開き直った喜助は、彼女の掌をどけてさくっと言いきった。
と、同時に鋭い拳が頬をめがけて飛んでくる。
「うわぁ!危ないじゃないっスか!今の本気だったでしょ!当てに来たでしょ!」
「当然じゃ!おぬしの可愛い恋女房に何もないとはどういうことじゃ!」
「や、だからこのヌルヌルしたローションの中に、媚薬効果が…ぐふっ…!」
夜一の肘が見事に喜助の鳩尾に入った。
言葉なく身悶える喜助に、呆れた溜息しか出ない。
別に夜一は指輪とか香水とか華美な物が欲しいわけではない。何か気持ちを込めた物が欲しかった。そう例えば、花一輪でも良かったのだ。
「おぬしは下心ばかりじゃな…」
「…だって、アタシだって欲しいンですもん。プレゼント」
「?ちゃんと毎年やっておるじゃろ。去年はマフラーで…、今年だってホラ、そこの包みに…」
喜助は頭を振って、寝転ぶ夜一をうらめしい目で見た。
「アタシの一番欲しい物知ってるクセになんだかんだ言って、毎年はぐらかすじゃないっスか」
「あー…」
今度は夜一が視線を外す番だった。
ほら、やっぱり。と喜助が視線で訴えかける。
少し思案して、夜一の口から溜息が一つ。
「分かった。では、今年は試してみようぞ。それで良かろう?」
彼女の意外な提案に喜助の顔がぱっと明るくなったが、すぐに再び口を尖らせた。
「……夜一サン。今日安全日なんでしょ…」
「……ちっ、…ばれたか…」
喜助の欲しい物。それは可愛い恋女房との間に、とりあえず一子。
「もー!夜一サンってばこれだから!」
怒った喜助の首に両腕を回し、甘える様に顔を近付けると、途端に喜助の喉が鳴る。
「…じゃが、今夜は煩わしいゴムなど付けずに、儂の中に入れるのだぞ。だから機嫌を治せ」
ちろりと覗かせた舌先で、鼻の頭を舐められると、怒りが欲情へと変わっていく。
釈然とせず、不平を言いたげに尖らせた唇のまま、それでも喜助は自身の作務衣を脱ぎだした。夜一は満足そうにそれを見ながら、彼の大きな背中を何度も指先で撫で上げた。
「もう…、本当に意地悪だ…!」
「ふふ、長年おぬしと居ると、性格も歪むのじゃ」
「アタシのせいにしないで下さいよ」
戯れる二人の瞳はもう互いしか映しておらず、悪戯な大きな手は既に褐色の肌の滑らかさをを愉しんでいる。
上がり始めた体温は、布団の中で、更に熱く絡み合う。
甘美な吐息と、触れ合う肌に徐々に浮かぶ汗。
快楽に揺れる体を預けて、そっと気持ちを繋げる。
言葉を無くした二人は、飽きもせず睦み合う。
何度も何度も同じ行為を繰り返し、同じ時を生きている証を感じ合う。
本当はプレゼントなんて、どうでもいいのだ。
互いが存在することを、肌で知るだけ。
世間が色めき立つ楽しげな催しに、流れてみているだけ。
さぁ、甘く深まる夜は、今始まる。
<終>
始まって終わるんかい。というつっこみは無しの方向でお願いします。
雰囲気で…!