chocolate kiss

 

褐色の肌は、まるでチョコレートのように滑らかで、舌の奥で甘い味がした。
 
姿形がまるで正反対の二人。
 
猫背で大きな背中に寄りかかった浅黒の肌は何も言わない。
 
只、上機嫌にもらったチョコレートを美味そうに食べているだけだった。
 
「アタシにもそれ、下さいよぅ」
 
背中越しの声に彼女は身動ぎもせず、こちらが首を巡らしてようやく声がした。
 
「嫌じゃ。第一おぬし甘いものは得手ではなかったはずじゃろ?」
 
 
大きな溜息をついて、意地悪な彼女にわざと聞かせる。
 
彼女はふふん、と笑ってそしてまた口を動かした。
 
机に向かう男。その背に凭れる女。白い肌に滲む墨。褐色の肌に滲む甘いチョコレート。
 
背中越し、馴染んだ体温は二人きりの部屋の空気も仄かに染める。
 
 
「…やっぱりそれ、ちょっと下さい」
 
甘い匂いに堪らなくなって振り向いた。彼女は唇に乗った一欠片を舐めとった処だった。
 
「残念じゃったのう、もうカラじゃ」
 
容器を逆さまにしてみせた満面の笑顔。あからさまに面白がってる。
 
「いっスよ。こっちを貰うから」
 
間合いを詰めて、顔を寄せて、唇をそっと吸った。
 
溶けて消えた最後の一欠片。チョコレートは温い舌の上で味わう。
意地悪された分、味わい尽くす。
 
どんどん味が薄くなる口腔内。
 
甘さの名残は鼻を抜けて、脳を溶かして、思考も朧にして消えていく。
 
 
「ご馳走様っス」
 
彼女の悔しそうな顔がこちらを睨んだ。
 
「…頂きますの間違いじゃろ?おぬしの魂胆など透けて見えるわ」
 
 
「おや、宜しいので?」
 
「ふん、おぬしも大概意地悪いのぅ」
 
ふてくされて、でも指を辿るとその目に火が灯る。
 
あぁアタシのチョコレート。もっと熱をくべて、この腕の中で溶かしてしまおう。
 
 
おしまい。

 

言葉遊びと過ぎてしまったけれどバレンタインネタで書きました。私がチョコ食べながら・・・。夜一さんの肌はミルクチョコレート。