翡翠のような綺麗な瞳に、くすんだ金色のくせのある髪。
男のくせに白くてきめ細かい肌に、筋肉質な細身の体を猫背にする姿勢も目を惹きつけてやまない。彼は自分の興味だけに没頭しては外界をシャットアウトしてしまう。
ああ、今もそうなのだ。今の自分も彼にとっては興味の外。物にも等しくて、こうやって同じ部屋にいてもとても遠く感じる。
設計図のような図面を覗いて見ても、何が書かれているのかさっぱりわからない。
所々に線で注意書きのようなメモが書かれているけれど、それを頼りにしても一向に分からない。
くせっ毛の頭ををガシガシと乱暴に掻き毟ると、眉根をしわ寄せて設計図を描いた紙をくしゃくしゃに丸めて後ろにポイっと投げ捨てた。
屑かごとはまるで見当違いに放られた紙くずを拾って、彼にめがけて投げつけた。
当然相手にされないあてつけのつもりだ。しかし、それも彼に気付いてもらえない。
紙くずが頭に命中しても、彼はそれにすら気付かない。
はぁ、と溜息がもれる。
こうなってしまっては、しばらくは相手にしてもらえない事を嫌というほど知っている。
瞬きも少なく集中して、先ほどのような図面をさくさく描いていく手の動きはとても早い。
頭はフル回転で稼動中のことだろう。
こうやって横顔を眺めている自分に気付くのは何時間先だろう。
意外に睫毛が長いことや、けっこう整った顔しているとかそんな感想は浮かべ飽きたのに、その横顔を見るとやっぱり同じことを思ってしまう。
長い指に、骨ばった手。肌蹴た甚平からのぞく胸元は、筋肉がちゃんとついていて、悔しいけれど男を感じる。
「・・・つまらん」
すっかり長くなった自分の髪を指で弄びながら、退屈に嘆いた。
だからといって研究に没頭中の彼は構ってくれない。
どこか出かけてこよう。
そう思うのだけれど、なぜか外に出る気になれない。
窓の外の景色は秋の風が穏やかで、空は自分の髪と同じ夕闇色をしている。紫から群青に染まる様は、案外好きだ。
もう時期寒くなっていく。
寒いのは苦手だけれど、嫌いじゃない。
彼にくっつける大義名分が出来るから。
こつん。
大きな猫背の背中に、顔を寄せてみる。それでも、大きな手の動きに迷いはない。
なぜだか、切ない。
自分だけ違う世界にいるみたいだ。
頬から伝わる熱はいつものようにあたたかいのに、それも作り物みたいだ。
「きすけ」
呼んでも、返事はない。
自分の腕を回して、ぎゅっと抱きつく。体の前面全部をその背中にくっつけて、温度をねだるようにきつく抱き締める。
そこで、ようやく手が止まる。
「もう少しで終わるから、待ってて?」
「イヤじゃ。もう待てぬ」
「そんな駄々っ子みたいなこと・・・。あぁ、じゃあこうしましょ」