・羽化 2・

冷たい壁に背を預け、吊られた腕のけだるさも苦には思わなかった。

ただ、呼吸をするたび引き攣れるような、胸の痛みとだけ戦っていた。
喜助をここまで追い詰めたのは儂だ。いつものあの優しい瞳はどこにいった?こんな獰猛な目をする男じゃないだろうに。
隠密には不似合いに大きくなってしまった乳房は喜助の手に合わせて形を変える。
体など、好きにしてくれていい。でも割り切れないのだ。このままでは、儂はただの愚かな女に成り下がり、おぬしの邪魔をする疎ましい女になってしまう。それが、分からんか?
気高い隠密機動総司令官の仮面を被らせていて欲しいのだ。
「やめろ!喜助…っ、儂は…!」
「やめませんよ。言葉をくれないアナタには、体に教え込まないと逃げられる。…体の奥底までしっかりボクで満たして、ボクから離れなれないように教え込むんス」
月が翳ったのが分かった。一瞬にして闇が襲う。
それにあわせて、息を呑んだ儂の秘部に忍び込んだ長い指は、遠慮なく弱い所を探して蠢く。
息が上がる。嫌じゃ。呼吸を吸うと、喜助の匂いで脳がやられる。女の本能が理性蝕んでいく――――。
「好き、…好きっス。分かって、夜一サン…!」
「…あぁ、ダメ…」
喜助の指が核心に触れた時、焦りは募った。
「嫌…!」
荒げた声を受けても、動じない喜助は淡々としていた。そして儂の眼前に秘部を弄っていた指を掲げて見せると、溢れている体液を見せ付けられ、言葉を失う。
「自業自得でショ?こんなに濡れるほどボクのこと好きなのに、嫌いなんて嘘付くから」
溢れた体液で汚れた指先を舐め上げて見せる。わざとらしく煽る所作。自分の生み出した体液を舐められるなど、恥ずかしくて心が乱れる。視線をそらして、それでも残った最後の理性で、喜助を糾弾した。
「おぬしのしていることは立派な犯罪じゃ!法にかけ、儂に二度と近づけんようにしてやる!」
「だから何スか?強姦されたと泣きつけるンですか?アナタが」
泣きつける訳がない。隠密機動の長としての威厳はその瞬間脆く崩れ、きっと図に乗った他の輩からも酷い扱いを受けうる状況を生むだけだ。
上下関係の均衡だけで、成り立っているのだ。
「出来ないでショ?それに、悪いけどこれは“合意”っスよ。アナタは嫌がってない」
揺れる心を見透かされたかと思った。咄嗟に言い返す言葉を失い、悔しさに唇を噛む。
「…欲しいんでしょ、ボクの体。こんなに濡れて、口を開けてる」
「ま、待てっ…!待つのじゃ喜助」
何?と表情で問うてくる。その瞳に合わせるように覗き込み、精一杯の懇願を込めて見つめた。
「話を聞いてくれ…お願いじゃ」
喜助の唇の端が上がった。良かった、聞く耳持ってくれたのだと思った。
しかし、喜助は儂の体を抱き締めるように体を沿わせると、顔の横で囁いた。
「…全部、逆効果なんスよ。そんな顔、ねだってるようにしか見えない」
「!!」
そのまま顎をつかまれ強引に唇を奪われる。自由を封じて、言葉を封じて、無理に開かれた足の間に体を捩じ込まれる。
秘部で感じたのは指よりもっと質量の大きいもの。
遠慮なく差し入れられるそれは、秘部の体液と合間って、どんどんと奥に入っていく。
首を左右に振って、口接けから逃げようともがくが、執拗に追っては吐息ごと吸い取られる。
互いに座位のまま、深く差し込まれたそれは儂の中で存在を示す。まるでそれが二人の軸であるかのように、体を寄せられ、腰を掴まれた。
「分かる?全部入ったっスよ…。あは、すごいヌルヌル…。ねぇ、本当に嫌なんスか?こんなに絡み付いて…。本当に素直じゃないな…」
喜助の喜んでいる声に耳を塞ぎたくなる。
お構い無しに、緩く腰を回され、上下に揺られる。質量が大きすぎて、腹を貫くのではないかと怖れるほどの圧迫で、下手に抗えない。喜助と繋がっているそこだけが、唯一確たる軸だから、宙に浮いているようで力の入れ所が覚束無い。
そんな危ういバランスの最中で、儂の両手を封じていた腰布が、打たれたクナイから千切れて落ちた。
腰布にさえ、儂の心などお見通しと言われたようだった。
―――――本気で嫌なら、こんな戒めなどすぐに切れる。なのに、そうしなかった。

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