「雪じゃ、喜助」
暖かい室内から暗い外を眺めると、幽かに舞い散る白い結晶。
もぞもぞと動く音がして、豆電球の薄暗がりの中で影が動く。
呼ばれた喜助が布団から頭を覗かせた。
半裸の上半身は気怠そうに窓辺にいる女の方を向く。
先ほどまで腕の中にいた彼女はすっかり窓の外に舞い散る雪に魅入られている。
艶かしい裸体に喜助の着ていた甚平の上衣を羽織ったままの淫靡な姿で、少女のようなあどけない顔をしている。
体を触れ合わせて互いの体温を感じるだけの戯れから、眠りへとまどろんでいた頃に彼女はするりと猫を思わせるしなやかさで抜け出したのだ。
「…寒くないんスか…?そんなとこにいたら、体冷えますよ…」
静かな部屋に眠そうな低い声が響いた。ぽつり、ぽつり、落ちるように。
「構わぬ」
喜助の方をちらりとも見ずにきっぱりと言い放ち、優しい眼差しは外を見たままだ。
その姿はいつまでも眺めていたいくらい絵になっていたから、しばらく喜助はじっと見ていたが、やはり少し肌寒く感じる。
「…夜一サン、ここ暖かいっスよ。…こっちおいでよ」
肩肘をついて返事のない夜一を見ている。
すらりと伸びた褐色の足を、ゆっくりと組む。そう、見せ付けるかのように、殊更ゆっくりと。
持ち上げたつま先から滑らかな曲線を描くふくらはぎ。膝を流れて吸い付くような肌を持つ大腿を、そしてその先にある喜悦を呼び起こさせる双丘。
ちらりと見えるか、見えないかの秘部は喜助の視線を集めてやまない。
喜助は眠気を優先させた先ほどの戯れを少し惜しんだ。
組み敷けば、受け入れるくせに全てを思い通りにさせない。全てを与えたフリをして、余裕を奪っていくのだ。そうやって戻れないほど嵌まり込んで、入れ込んでしまう。
夜一の金色の瞳が、いつの間にか流し目のように喜助を見ていた。あの果実のような唇は微笑んだままで。
(ああ、ほら。つれないフリして、その実、抱かれたかったのはアナタの方じゃないスか)
喜助の口元もくえない笑みを浮かべたまま、布団をめくってみせる。
「儂は寒くないぞ」
この期に及んで言葉遊びをする夜一は、指先を口元にもってきて柔らかな唇で噛むと小首を傾げ、窓に寄りかかった。さらりと長い髪が背に流れて、首筋が露になる。
妖艶な流し目のまま、ゆっくりと瞬きを繰り返す長い睫毛は、まるで蝶々のように魅惑的。
喜助は奪い取りたい欲求を腹に抱え、それでも言葉遊びに乗る。
「そう?じゃー、寒くなるまで待ちますよ」
さぁ、どう返す?
喜助が肩肘を解くと、そのまま半分うつ伏せになり様子を伺うように視線を送った。
微笑みの形を象っていた唇が、少し尖る。
「冷たい男じゃの。こちらに来てその腕で暖めてくれても良いのではないか?」
頬を染めたままで、困ったような、切ないような顔を見せるのは反則だ。それは愛撫の時に見せる顔じゃないか。
「暖めたいんスけどォ…。アナタが雪に見惚れてるからアタシの心が嫉妬で冷え切っちゃいましたよ。だから、アナタが暖めて下さいよ」
「ん―――。しょうがない男じゃの」
返事が面白かったのか、愉快げに微笑むと、羽織っていた上衣を脱ぎ落とし、またするりと懐に戻ってきた。
褐色の滑らかな肌はやっぱり冷たくて、でも上昇していた体温にはそれすらも心地良い。
夜一の上に圧し掛かると、しなやかな腕が喜助の腰に回された。そして甚平の下衣を冷たい指先がじりじりと下ろしていく。ある程度下ろしてやると後は器用に足を使って脱ぎ捨てる。
重なった肌に喜助の熱くなった体温が気持ちよくて、うっとりと溜息を逃がすと、その手は大きな背中や引き締まった臀部を撫でて体温をねだる。
恥骨が触れ合う下では、喜助の陰茎はすっかり勃ち上がって入り口を探して夜一を誘っていた。
「なんじゃ、熱い体しおって。これで心が冷えたなどよく言ったものじゃな」
潤んだ綺麗な金色が楽しげに揺らめいた。喜助を虜にする甘い微笑み。
唇を重ねて数度吸い付くと、つつ…、と頬をかすめて唇と舌で耳朶をはむ。そのままお返しとばかりに囁く。
「…まだ寒いよ。夜一サン、中に入れて暖めて…」
脳を揺さぶる濃密な低音の誘惑に、夜一の背がゾクゾク…ッと震えた。
腰を摺り寄せ、温かさをねだるように女陰を割り入ろうと先を食い込ませてくる。
整った均整の取れた体に不似合いなほど大きな乳房を思うが侭に揉み、ピンと立ち上がった紅色の乳首を指で捏ね摘む。
「あっ…、あぁ…!」
言葉遊びをしていた唇から思わず濡れた嬌声が漏れる。全身への愛撫は止まらず、静かな室内に荒い吐息と共に妖しい雰囲気を作る。
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